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2009

0509
久しぶりに「一力節」を読みました。
作品は違っても、作品に漂う気品や心意気は、あい通ずるもの。
心地よい読後感に、うっとりします。

物語は、深川の老舗・桔梗屋の主人である太兵衛と、賭場の貸元・霊巌寺の猪之吉が、書の稽古場で出会うところから始まります。

え?賭場の貸元が、書道教室!?

と思わず、まじまじと「筆道稽古場」の文字を、「間違いないよね?」と見直してしまいました(わは)。

今の立場も生きてきた道もまったく違う二人ですが、お互い、人間の器量に惚れあい、深く付き合っていくことになります。

しかし、桔梗屋の乗っ取りという企みが進行。それを黒幕から頼まれ、策を仕掛けてきたのは、騙り屋の治作たち。

跡取りのいない太兵衛は、自分の死後のことを思いつつ、重い病であの世へ旅立ちます…すべてを猪之吉を託して。

猪之吉一派と治作一派の闘い。
その結末は…。


というお話です。


********以下、物語の細部に触れています!********


猪之吉と太兵衛という、酸いも甘いも噛み分けた、壮年のオトコふたりのつながりには、惚れ惚れとさせられます。
人間に惚れたのねぇ…と素直に感動してしまいます。
ぶっきらぼうな猪之吉の熱い面というのは、実にわかりやすいのですが(それが彼の魅力です)、
とりわけ大店の主人として、常に穏やかでどっしりとした太兵衛が見せる、猪之吉への静かでゆるぎない信頼は、ぐっと胸に迫ります。

文庫本の裏表紙に書かれた、物語の抜粋を読んだとき、私は、太兵衛がすぐに亡くなるのかな~と思ってました(一文目にいきなり、「太兵衛は(略)息を引き取った」ってあるんだもの)。
でも、実際は、物語の中盤で、太兵衛は亡くなります。
そこまでに描かれる二人の関係が、なにより物語に深みを生んでいるのだなぁと、思います。

単に、騙り屋との知力を尽くしたやり取りが面白いだけではないのです。

また、私自身は、ラストの騙り屋との一戦よりも、太兵衛の葬儀を立派に行おうと、一切を取り仕切る猪之吉の場面が、クライマックスのようにドキドキしました。
ほんとに粋な采配で、くらくらします。

そして、桔梗屋の頭取番頭である誠之助。
60歳近いというのに、治作たちにかどわかされて、拷問にかけられても、一切のことを話さなかった心意気。
堅気で、こういった無頼ごとには無縁な彼にさえ、貫かれている男気に、心打たれますね。
大好きな登場人物でした。

あと、猪之吉の女房♪
名前すら出てきてないし、出番も2か所ほどなんですけど、なんだかとっても気になるのです。
凛とした「いい女」の匂いがたっぷりで!
あの猪之吉が女房に、と思った女性は、どんな人なんだろう…と好奇心が沸いてしまいます。

魅力的な登場人物がいっぱいで、目移りします。

それにしても、桔梗屋のその後がどうなったのか…読了しても、『欅しぐれ』の「その後」が気になって仕方ありません。
跡取りとして、誰を迎えたのかなぁ…。
その跡取りと猪之吉の関係はどうなったのかなぁ…。
誠之助は、まだまだ元気に頭取番頭続けるんだろうなぁ…。
きっと、乗っ取りの黒幕・鎌倉屋は、また何か懲りずに仕掛けてきそうだなぁ…。
とか、いろいろね!

そうそう。
「貸元・霊巌寺の猪之吉」といえば、同じ山本一力作品『大川わたり』で、「猪之介」が出てきてますね。
こちらも猪之吉と同じく、「達磨」の異名を持っています。
『大川わたり』が天明年間で、『欅しぐれ』が天保年間だから、
もしかしたら、猪之介の次の代の貸元が猪之吉だったりするのかなぁ…。

そういうつながりを考えるのも、山本作品を読む楽しみです☆

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